第9章 落石実験とシミュレーション


9.1 崩落岩塊の到達距離

 岩盤崩壊が発生した場合の崩落岩塊の到達距離は,崩落形態や発生した斜面よりも下方の斜面状況などに影響を受けると考えられる.これまでに発生した岩盤崩壊の事例の中から主なものを抽出して崩落形態の分類を行い,表9.1.1に示す.この表は土木学会の崩落形態分類(1999)(落石規模の形態を除く)に一部追加したものである.地質,地形,および最大到達距離などの詳細について表9.1.2に示す.

  表9.1.1 岩盤崩壊の形態分類:土木学会(1999)9)に崩落型を追加
 

   この表における崩壊高さと到達距離の関係を図9.1.1に示す.図に見られるように,崩落岩塊の到達距離は,おおむね崩落高さ以内に収まっているが,崩壊形態が「すべり」で崩落高さが100mを超えるあたりから崩落高さの1.2〜1.3倍になることが分かる.
 但し,ここで扱った到達距離は,大きさの測定が比較的簡単な岩塊の場合であって数cm程度以下の細かな飛散距離は考慮していないことに注意を要する.
 
  図9.1.1 崩落高さと到達距離の関係

  表9.1.2 岩盤崩壊の形態と地質・地形・崩壊物到達距離一覧
 
  注) 「北海道日本海沿岸における大規模岩盤崩落検討委員会報告書」(2000年10月)に基づいて整理したものである.


  9.2 落石の運動

 落石の運動形態は次のように分類できる(図9.2.1).
 
  図9.2.1 落石運動模式図

 
a) すべり運動
岩塊,玉石,礫などがずり落ちる状態で下方へすべってくるもの(図9.2.2(1)).
b) 回転運動
岩塊,玉石,礫などが回転しながら下方へ移動してくるもの(図9.2.2(2)).
c) 跳躍運動
空中を跳躍しながら下方へ移動してくるもので,落石発生箇所からすぐに跳躍運動する場合とすべり運動や回転運動のエネルギーが大きくなって跳躍運動に移行する場合がある(図9.2.2(3)).
 
  図9.2.2 落石の運動

   落石の運動形態は,落石の形状や寸法,岩質と共に落下斜面の地形,地質,植生状況によって前述のいずれかまたは,これらを組合せた運動形態をとる(図9.2.3).
 したがって,斜面が緩勾配に変化したり,地表面が岩盤から崖錐に変わるなどの斜面条件が変化すれば落石の運動エネルギーは減少に転じ,いずれは停止する.
 
  図9.2.3 落石の運動形態の変化


  9.3 斜面条件と落石の運動エネルギー評価

 落石対策便覧の推定式より運動エネルギーを求めることは可能であるが,落石運動の減衰や停止と言った現象は推定することは困難である.本書では,落石が減衰し停止に至る現象を質点系シミュレーション(モンテカルロ法)より逆解析した3事例と対策工を実施した1事例を紹介する.
 これらの結果より,比較的緩斜面(45゜以下)であって地表面がほとんど崖錐である場合は落石の運動は減衰する傾向が強く,斜面中で停止するケースが多くなることがわかる.
  9.3.1 立山有料道路の逆解析

 大規模な落石について実斜面における崩壊および落石実験を行い,シミュレーションによって逆解析を行った事例である.実際に停止した落石の位置および分布は,シミュレーションの結果とよく一致している(図9.3.1).
 実際の崩壊および落石実験の規模は以下のとおりである.

崩壊日時:平成4年5月16日
落石重量:崩落時 400kN 停止時 200kN
斜面比高:290m
平均斜面傾斜:36゜
内容:発生源をその後発破によって落下させ(落石実験),除去する.

 
  図9.3.1
立山有料道路のモデル化した斜面と停止した落石の度数分布

  9.3.2 立山砂防水谷平における逆解析

 国土交通省立山砂防出張所の背面では水道沢側壁からの落石が日常的に発生し,出張所のごく近くまで落石が致達している.しかし,出張所に直接被害が及ぶような落石は見られない.この点について現地調査に基づく断面によって落石シミュレーションを行った.シミュレーション結果と落石の停止位置の区間および出張所へ達する落石の履歴の比較を行い,両者がよく一致していると見られる(図9.3.2).
 落石シミュレーションの条件は以下のとおりである.

落石重量:10kN
斜面比高:200m
平均斜面傾斜:41゜
 
  図9.3.2 立山水谷平のシミュレーションによる停止した落石の度数分布

  9.3.3 一般国道17号三俣地区の事例

 一般国道17号三俣地区では道路下部斜面に多くの崩落の危険性の高い岩塊が確認された.しかし,落下する斜面は比較的緩斜面であり,斜面中で落石は停止し,道路まで到達しないと予想された.そこで,シミュレーションによって照査した結果,到達する落石はなく,対策工は不要という結果となった(図9.3.3).
 
  図9.3.3 三俣のシミュレーションによる停止した落石の度数分布

  9.3.4 一般国道8号親不知地区の事例

 立山有料道路や立山砂防水谷平の事例に示したように緩斜面や崖錐斜面では減衰効果が大きく,落石が停止するケースが多く見られた.実際に対策工を計画する場合でも減衰効果を期待できる斜面条件を有する場合には,現地の状況を反映した落石条件を設定することが重要となる.
 一般国道8号親不知地区の対策工を実施した事例より,シミュレーション結果と落石対策便覧の推定式より求められた運動エネルギーを比較した.この場合,落石対策便覧の推定式より算出される運動エネルギーに対してシミュレーション解析より得られた運動エネルギーは約60%程度である.
 表9.3.1は親不知地区におけるシミュレーション結果と便覧式の比較を示したものである.同表に示すように,向山2号および浄土1号以外の比較的一様な崖錐斜面の平均的な等価摩擦係数は0.62となる.したがって,落石対策便覧の推定より等価摩擦係数を0.35とした場合の運動エネルギーはその換算落下高比となるため,シミュレーション結果の約1.5〜2倍となる.
 落石対策便覧では落石の換算落下高さは自由落下する落下高に対して,次のように表現される.
 

ここに,H′:換算落下高さ(m)
H: 落差(m)
斜面勾配(゜)
μ: 斜面の等価摩擦係数

  表9.3.1 一般国道8号親不知地区のシミュレーション結果と便覧式との比較
 


  9.4 既往の落石実験

 これまで行われた実斜面を用いた落石の運動経路に関する実験的研究の概要について述べる.

9.4.1 神戸製鋼所の実験1)

 鋼製落石防止柵の実用性の立証と緩衝特性の解明のために,最初に行われた落石実験である.斜面の鉛直高さ20m,斜面の勾配45度,投石用の岩塊質量は66kg,100kg,400kgおよび600kgの4種類である.本実験は落石による落石防止柵の挙動の解明が目的であるため,落石の運動経路については詳細なデータは見られないが,落石速度に関しては,落石質量が大きい場合は,落石の回転エネルギーを考慮した計算速度に近い値を示すこと,落石質量が小さい場合には,斜面の微小凹凸によるエネルギー損失が比較的大きく,落石速度は質量が大きい場合に比較して小さく,また,そのばらつきも大きいとしている.

  9.4.2 日本道路公団の実験(その1)2)

(1)実験概要
 落石の運動機構を明らかにし,その運動エネルギーの実態を解明すると同時に,一般的な防護柵について落石の衝突による防護機構を明らかにすることを目的として,昭和48年9月6日〜8日に群馬県利根村大字薗原において実斜面を利用して落石実験が行われた.高低差約60mの2種類の自然斜面を伐採除根して実験用斜面とした.斜面Aは傾斜角53度程度の岩露出斜面であり,斜面Bは傾斜角38程度の崖錐斜面である.供試落石は,実験現場内の片品川から30〜800kgの自然石を塊状および板状とに形状を区分して集め,計量し白色に着色した.落石の運動機構については,落石の立体写真撮影を行い,写真測量の原理により立体軌跡および時間を求めた.落石の回転状況は高速度カメラで撮影を行い測定した.

(2)実験結果
 図9.4.1は斜面AおよびBそれぞれの斜面における落石の落下高さと跳躍量の関係を示したものである.跳躍量は落下高さ30mまでは2次曲線で増大し,最大跳躍量は約2.0mに収束している.しかし,斜面途中に突起がある場合,これを越えることがあることを示している.
 
  図9.4.1 落石の落下の高さと最大跳躍量

   図9.4.2は落下高さと落下速度の関係を示したもので,落下高さが40mを越えると落石速度は一定値に収束する傾向があることがわかる.
 
  図9.4.2 落石の落下の高さと速度

  9.4.3 日本道路公団の実験(その2)3)

 落石の軌跡,速度,エネルギーなどの運動機構の解析と,斜面に1〜3段に設置された落石防止柵の防止効果および落石に対する対衝撃性の確認,および,防護柵のアンカーに生ずる衝撃力の測定などを目的として,昭和48年に愛知県瀬戸市小西砕石富士工場内において実斜面を利用して落石実験が行われた.道路上約60mの自然斜面を伐採除根して実験用斜面とした.斜面の勾配は上から15m区間では27度,その下約15m区間では35度,更にその下約20m区間では39度,その下道路までは55度となっており,斜面上は緩やかで,下部に行くにしたがって急斜面となるうえに凸の斜面である.供試落石は,砕石場内で切り出した20kg,50kg,500kg,1000kg,1500kg,2000kgのもの44個を準備した.落石の運動機構につては,8mmカメラ3台と16mm高速度カメラ1台を使用して撮影し,解析に使用している.

  9.4.4 建設省土木研究所の実験(その1)4)

(1)実験概要
 実物大の実験斜面における観測データから,運動形態を予測する経験則をより合理化することを目的として行われた.実験斜面としては高松市近郊の土取り場跡地の人工斜面が選定された.実験斜面は風化した花崗岩からなり,斜面勾配は約60度,斜面長約35mで,微小な凹みは存在するが一様な勾配を有している.供試落石は花崗岩で,板状および塊状に分類し,形状毎に落石の大きさとして最大径で30cm,50cmおよび70cmの3種類のものを準備した.実験は図9.4.3および表9.4.1に示すように,4種類に区分して行っている.
 
  図9.4.3 実験の種類

  表9.4.1 実験の種類
 
基礎実験 実験1 落石の運動エネルギーに関する実験
実験2 落石の回転エネルギーに関する実験
実験3 落石の入射角に関する実験
総合実験 実験4 斜面における落石の運動形態に関する実験

  (2)実験結果
 図9.4.4は落石の落下高さと落石の跳躍量を示したものである.図より,落石の跳躍量は,位置エネルギーが大きくなるにつれて増大するが,ある一定値を越えると収束する傾向がうかがえる.また,図9.4.5より落石の形状および大きさによる跳躍量の顕著な相違は認められないことがわかる.図9.4.6は斜面勾配と跳躍量の関係を整理したもので,これによれば,勾配の急な斜面ほどその跳躍量は小さくなっており,約30度で最大となり,それ以下でほぼ一定か減少の傾向にある.また,図9.4.7は斜面のシュミットハンマーで求めた硬度と跳躍量の関係を示したものであるが,シュミットハンマーを斜面硬度の測定に用いるという適用性の問題は残るものの,この風化花崗岩の斜面に関する限り,斜面硬度の減少とともに跳躍量か減少する傾向がうかがえる.

 
  図9.4.4 落石の落下高さと最大跳躍量

 
  図9.4.5 最大跳躍量の累加百分率

 
  図9.4.6 斜面勾配と最大跳躍量 図9.4.7 斜面硬度と最大跳躍量


  9.4.5 建設省土木研究所の実験(その2)5)6)

 実験室内で模型斜面を用いた最初の実験である.斜面は角度を変えることができる長さ200cmの鋼製のもので,斜面の下部には同様に鋼製の水平板が設けられている.
 斜面の表面は,黒皮の鋼材表面の他,カーペット,合成ゴム(厚さ約3mm),サンドペーパー(No.100,粒径0.25mm)を接着し,各種の表面の状態で実験できるようになっている.
 供試落石としては,直径2.4cm,質量18.25kgのガラス球を用いている.
 落石実験の撮影は,16mm高速度カメラを用い,モーションアナライザーを用いて解析している.これらの実験より,各種の斜面の状態に対する入射速度と跳躍距離,入射速度と跳躍高さ,入射角と反射角,入射速度と反射速度などの関係を明らかにし,落石の軌跡の数値解析のための基礎資料を得ている.


  9.4.6 四国建設コンサルタントの実験7)

(1)実験概要
 合理的に落石の飛躍高さを推定する手法の確立を目的として,徳島県鳴門市中山の採石場の切り取り斜面で落石実験を行った.実験斜面は高低差22.5m,斜面勾配約48度であり,ほぼ一様である.斜面は和泉層群の砂岩と頁岩が互層を成しており,比較的凹凸の少ない斜面である.供試落石は砕石場内で発破によって切出した質量6.0kg〜47.5kgの角張った形状のものであり,白色ペンキで着色し,全て同一地点から落下させた.落石の挙動撮影は,正面に8mmシネカメラ(映画用のカメラ)を,側面には16mmシネカメラとビデオカメラを各1台設置して撮影を行った.また,斜面上に縦横5m間隔に標識を設置し,目視観測で軌跡を追跡した.

(2)実験結果
 図9.4.8および図9.4.9は落下高さHと斜面に衝突する直前の速度および跳躍開始直前の速度との関係を示したものであるが,どちらの場合も落石の形状や大きさによる速度の差は認められない.また,図9.4.10は落下高さと最大跳躍高さとの関係を示したものであるが,最大跳躍高さは落下高さが大きくなると共に増大する傾向にあり,落下高さがある一定値を越えると最大跳躍高は収束するという他の実験で見られた傾向は認められない.

 
  図9.4.8
斜面に衝突する直前の速度分布
図9.4.9
跳躍開始直前の速度分布

   
  図9.4.10 最大跳躍高  


  9.4.7 その他の実験

 以上,概要を説明した実験の他に,いくつかの斜面上での落石実験が行われているが,これらの概要をまとめて表9.4.2に示す8)


  9.5 DDAによる岩盤崩壊シミュレーション事例
    (溶結凝灰岩強溶結部からの落石到達範囲の評価事例)

9.5.1 解析経緯

 平成13年4月(融雪期),北海道中央部の国道沿線に分布する溶結凝灰岩の非溶結部において剥離崩壊が発生し,岩盤モニタリング計器などが破損した.これら崩壊箇所付近の国道は,斜面から十分に安全なクリアランスをとることで恒久対策が完了しており,落石が現道に達することはなかった.
 しかし,当該地区は非溶結部の上位に柱状節理の発達した強溶結部が分布しており,現在も大規模岩盤の崩落が懸念されていることから,DDA(不連続変形法)により,非溶結部からの剥離崩壊を再現することで諸定数を見積もり,大規模な柱状岩体が崩落した場合の現道への影響を評価することとした.

  9.5.2 地形・地質概要

 当該地区は,大雪火山群中のカルデラを噴出源として流下した大雪火砕流により形成された溶結凝灰岩からなる.溶結凝灰岩には堆積後の冷却過程で生じた柱状節理が発達し,その後の浸食過程を経て,対象斜面は柱状節理に沿ったほぼ垂直に近い壁面とその裾部に堆積した緩傾斜の崖錐斜面からなる.
 また,火砕流はいくつかのクーリングユニット注1)をもち,またそれは数枚のフローユニット注2)から構成されていることが明らかにされている.クーリングユニットは,ユニット間に時間的間隔が伴うことにより,非〜弱溶結部・強溶結部などの差異が生じ,谷地形形成時における差別浸食・差別風化が生じる原因ともなっている.
 当該斜面に分布する地質は,白亜紀の日高累層群に相当する溶結凝灰岩(Pt,Wt),第四紀の砂礫層(R)からなる.溶結凝灰岩全体の層厚は100m程度であり,下部から層厚20m程度の弱〜非溶結部(Ptw),12〜15m程度の弱溶結部(Pt),30m程度の強溶結部(Wt),35m程度の弱溶結部(Pt)からなる.
  注1) クーリングユニット:火砕流が堆積地点で常温まで冷却することによって完成する堆積物の単位.
  注2) フローユニット:単一の火砕流のとぎれない通過又は停止によって残された堆積物.


  9.5.3 非溶結部からの崩壊状況

 崩壊発生源は,現道との比高40m付近に位置する,壁面下部の弱溶結部(Pt)の3箇所であり,崩壊した岩塊はφ30〜50cm程度(最大礫径2.0×1.1×0.5m)を主体とする.崩壊箇所をそれぞれ@,A,Bとし図9.5.1図9.5.2に示す.岩石岩塊はいずれも斜面裾部の崖錐斜面沿いに散在する.岩塊の一部は旧道上に点在しており,最も遠くまで飛散した岩塊(礫径1.3×1.0×0.9m)は旧道脇(現道からの離れ60m付近)に認められる.
 今回の崩壊発生源は,@〜Bのいずれも現道との比高40m付近(クリアランスは110m程度),岩盤下部ノッチ付近の弱溶結部(Pt)に位置している.
 
・崩壊位置 B断面の旭川側端部に20〜30m
現道との比高40m付近(クリアランスは110m程度)
岩盤下部ノッチ付近の弱溶結部(Pt)
・崩壊形態 岩盤表層の剥落
・崩壊規模 @ 12m×12m×0.7m=100m3程度
A 8m×6m×0.9m=43m3程度
B 5m×4m×0.7m=14m3程度    の計 150m3程度
 
  図9.5.1
非溶結凝灰岩部からの崩壊落石分布と
岩盤モニタリングの状況
図9.5.2 崩壊発生源の様子

  9.5.4 DDAによる岩盤崩壊シミュレーション事例

(1)DDAについて
 近年岩盤を不連続面で形成される岩盤ブロックの集合体とみなし,斜面の大変形を含む変形挙動や崩壊形態を検討対象とした不連続解析手法が提案されている.
 その代表的手法としてDDAが挙げられる.DDAは全ての要素が既存の不連続面により区切られ孤立したブロックであるメッシュ形状の要素を解くものである.理論的背景はFEMを拡張したものであり,FEMと同様ポテンシャルの最小化原理を利用して,剛性マトリックスを作成,解析する方法であり,解の唯一性が保証されている.
 DDAは,任意形状の個々の岩石(要素)ブロックの重心点で定義するひずみ,剛体変位,剛体回転を未知数として使用し,定式化はFEMと同様の手順を踏むものである.
 また,未知数はブロックの重心で定義されており,ブロック同士の接触による貫入はペナルティー法を用いて,貫入量が一定量以下になるように繰り返し解かれる.
 以下にDDAの特徴を示す.

(1) ひずみエネルギーの最小化原理を用いており,FEMと同様に解の唯一性が保証される.
(2) 順解析および逆解析ができる.
(3) 動的,静的問題が同じ定式化で計算される.
(4) ブロック要素に任意の構成則を導入できる(弾性,非線形,弾塑性,粘性など).
(5) 任意の接触条件(Mohr−Coulomb則など),境界条件(強制変位など),荷重条件(熱応力,初期応力,初期ひずみ,慣性力,線分布荷重など),ロックボルト要素などが設定できる.
 
 DDAはFEMと類似し,解の安定性,材料定数の決定が比較的容易であることから,落石や岩盤崩壊の解析に用いられつつある.

  (2)解析方法と結果
 解析方法として,まず今回の崩壊をDDAで解析し,必要なパラメータを決定する.その結果をもとに,想定される柱状岩体の大規模岩盤崩壊を解析し現道への影響を評価した.
 解析は全部で4ケース行った.以下にそれぞれのケースごとの解析結果を示す.

1)ケース1:非溶結部の剥離崩壊の再現
 今回の崩壊をDDA解析で再現する.その際,落石の最大到達地点に着目し,解析結果と実際の到達地点が一致するようパラメータを変化させた.図9.5.3に崩壊箇所の断面を示す.ケース1では崩壊の到達地点に最も影響が大きいと考えられる粘性係数の決定を行った.図9.5.4にケース1の解析結果を示す.落石径は約1m×1mで,最大到達地点での落石径とほぼ一致させている.この時の粘性係数は0.19であり,落石の最大到達距離はほぼ現状と一致した.
 既往の文献と比較しても,粘性係数が0.19という値は妥当と考えられ,強溶結部の柱状岩体の崩壊解析では粘性係数を0.19とし,現道への影響を評価した.
 
  図9.5.3 崩落箇所(崩壊@)の断面

 
  図9.5.4 ケース1の解析結果(※アニメーションを見る

  2)ケース2:強溶結部 縦10m×横10mのブロックに分割し崩壊した場合
 ケース2より大規模な岩盤崩壊が想定されている断面Bでの解析結果を示す.断面Bの断面図を図9.5.5に示す.断面Bでは崩壊形態をすべり型とする想定規模約6,700m3の岩体があり,モニタリング対象岩体の一つである.
 ケース2では,崩壊した岩体ブロックが縦10m×横10mの規模で落下した場合を想定し,解析を行った.解析結果を図9.5.6に示す.
 
  図9.5.5 B断面

 
  図9.5.6 ケース2の解析結果(※アニメーションを見る

  3)ケース3:縦8m×横2.5mの大型柱状節理が崩壊した場合
 ケース3では縦8m×横2.5mの大型柱状節理が剥離した場合を想定し,解析を行った.解析結果を図9.5.7に示す.
 
  図9.5.7 ケース3の解析結果(※アニメーションを見る

 

4)ケース4:岩体のブロックにある程度のばらつきをもたせた場合
 ケース4では今回の崩壊の岩体ブロックの大きさを想定し,解析を行った.岩体のブロックのサイズにはある程度ばらつきをもたせ,大きいもので縦5m×横2.5m,小さいものでは縦2m×横2mとした.解析結果を図9.5.8に示す.

 
  図9.5.8 ケース4の解析結果(※アニメーションを見る

  9.5.5 まとめ

 大規模岩盤崩壊が発生した場合の現道への影響をDDAにより評価した.非溶結部の観察などから発生した崩壊の発生源,規模などを特定できたため,まず,ケース1解析により粘性係数を決定し,次に幾つかのケースについて大規模岩盤崩壊の解析を行った.ケース2から4にかけて,崩壊岩体ブロックの大きさを小さくしていったが,これは一般に岩体ブロックが小さい方が,抵抗の影響が小さく,周りのブロックの衝突や跳ね返りなどの影響を受け,より遠くへ到達するためである.しかし,ケース2〜4では全て旧道には到達していたものの,現道にまで達することはなかった.
 以上から,DDA解析結果からは想定される大規模岩盤崩壊が発生した場合でも,現道への影響はほとんどないと判断され,恒久対策(十分なクリアランスを持った別線ルート)の効果が改めて評価される結果となった.


  [参考文献]
1) (株)神戸製鋼所:落石防止柵現地実験報告(概要),1996
2) 日本道路公団東京支社・(株)建設企画コンサルタント:落石実験調査報告,1973
3) 日本道路公団名古屋管理局・(株)建設企画コンサルタント:愛岐落石防止柵耐衝撃力測定実験報告書,1973
4) 佐々木康・谷口栄一・舟見清巳・谷本亘・堀口正己:落石の跳躍量に関する実験,第14回日本道路橋会議論文集,pp.113-115,1981
5) 建設省土木研究所機械施工部動土質研究室:落石防災対策に関する報告書,土木研究所資料第2770号,pp.78-199,1989
6) 鷲田修三・古賀泰之・伊藤良弘:落石運動の予測手法について,第24回土質工学会発表会,pp1161-1613,1989
7) 右城猛・村上哲彦:落石の飛躍高の推定,第1回落石の衝撃力およびロックシェッドの設計に関するシンポジウム論文集,pp.48-54,1983
8) 古賀泰之・右城猛・小村辰彦:落石対策運動のメカニズムと予測(その1),土と基礎Vol.50,No.3,Ser.No.530,pp68〜73,2002
9) 土木学会:岩盤斜面の調査と対策,1999